いい気分で凱旋門賞を終えるために
2006/09/30(22:42)
5月8日、月曜日。全休日のトレセンに週刊誌を配りに行く以外の目的で入ったのは、入社以来初めて。ディープインパクトが凱旋門賞へ挑戦する旨の記者会見を取材しに行ったのだ。まだ天皇賞が終わって1週間、宝塚記念まで結構な日数を残した時期だったので、「あぁ、まだだいぶ先の話だなぁ」と思っていたのだが、それがあっという間にあと26時間。つくづく、時間というものは早く過ぎる。
タップダンスシチーが凱旋門賞に挑戦したのが2年前。入社して間もない私にとって、タップダンスシチーの時はブラウン管の向こうの出来事といった感覚でしかなく、あまり感情移入できていなかった。ただ、今回のディープインパクトに関してはちょっと気分が違う。入社した年に2歳馬として入厩して、当時私が採時を担当していたDWコースで追い切っていた馬だけに、思い入れというか、必要以上に肩入れしたくなる。この世界に入っていきなりこんな馬を間近で見れたことは、この先の大きな財産になるだろうと思っている。
私に限らず、今回のディープに関しては、馬が馬だけにあらゆるところに期待の大きさが窺える。連日、スポーツ紙はもちろん、普段は競馬を取り上げないようなテレビのスポーツコーナーでまでディープインパクト一色。ちょっと過熱し過ぎじゃないか?と思えるほどだ。
先日、とあるジョッキーと食事をする機会があった。時期が時期だったのでディープインパクトの話になったのだが、そこでちょっと気になる話が出てきた。
「今回、かなりの人が凱旋門賞を見に行くでしょ。うれしい反面、ちょっと心配なこともあるんだよね。タップダンスシチーが凱旋門賞に行ったとき、応援に来てた日本のファンのマナーが凄く悪かったらしくて……。(佐藤)哲三さんが怒ってたんだよ。『同じ日本人として、本当に恥ずかしい思いをした』って。」
12Rが終わって、新聞や馬券が散らかっている状態がさも「当たり前」になっている日本の競馬場の状況を見れば、日本の競馬ファンのマナーはお世辞にもいいとはいいがたい。普段から競馬に接しているファンでさえそうなのだ。きっと今回は、ディープインパクトをきっかけに競馬に興味を持った若いファンもいるはず。競馬観戦ツアーに慣れていないような旅行会社もあったりするのではないか。そういう人たちに、ちゃんと「やってはいけないこと」が周知されているか、ちょっと不安だったりする。普通のスポーツ応援で行くなら、多少派手にやっても問題はないだろう。日本代表を応援する気持ちで国旗を大きくはためかせたって、大きな問題はない。ただ、競馬の場合はちょっと違う。馬が主役だ。
「まして、ディープインパクトってああいう(テンションの高ぶる面のある)馬じゃない。そういうところまで考えて、現地にいってるファンの人たちには応援してもらいたいよね」
アルピニストの野口健さんはかつてエベレスト登山の際、日本語の書かれたゴミが登山道にうずたかく積まれて捨てられているのを見たヨーロッパの登山隊にこう言われたことがあるという。「日本は経済は一流だけど、文化、マナーは三流だ」。
勝っても負けても、ここまできたことが既に賞賛に値すると思う。ただ、どんな大きなことを成し遂げたとしても、そういったものを残してしまえば、すべてに水をさしてしまう。気持ちよく凱旋門賞を終えるには、レースを見ている我々にも、それなりの心構えが必要だ。久々に、ちょっと考えさせられる話だった。
(坂井直樹)
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